【インタビュー】見た瞬間はっとする、「時間が止まる靴」づくりを目指すentoanとは

entoan


-櫻井さんが靴の世界に進んだのは、どんなことがきっかけだったのですか?

とにかく子どもの頃から靴が好きだったのです。親に買ってもらうものの中でも靴だけは別格だった。本格的に仕事として考え始めたのは大学3年生の時。卒業後の進路について真剣に悩み、ずっと続けていくなら好きなことをしようと決めました。専攻は会計だったので、周りの友達はほとんど一般企業に就職しましたけどね(笑)。それで大学を出たらまず靴作りを勉強しようと思って学校を検索したところ、「エスペランサ靴学院」が一発目で出てきた。すぐ見学に行って、直感的に「ここ、いい!」と思ったので、その場で入学を決意しました。実際に入学してみて、あの直感は正しかったと思いましたね。2年間で、1足の靴をほぼひとりで作れるようになりました。ゆくゆくは靴を作る仕事をやりたいと思っていましたが、卒業後は在学中からアルバイトしていた靴修理の会社に入社しました。製造工程によって分担作業になる工場でひとつの作業をずっとやるより、修理の方がいろいろできると思ったからです。

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-修理の仕事を始めてから、ご自身のブランド立ち上げまでとても早いですね。
就職して数ヶ月はもう、昼飯も食べられないほど忙しくて、毎日がいっぱいいっぱいでやっていました。そんな中で、学校で一緒だった杉本 華と会う機会があり、「展示会をしたいね」から始まってそのままとんとん拍子に一緒にブランドを立ち上げる話にまで進んでいったのです。折しも、今アトリエを置いている「浅草ものづくり工房」がその年の12月に新設されるタイミングで、申し込んだところ入居が決まった。それが独立の時期を決めるきっかけになりました。結果的に、靴修理の会社は半年で退職し、2009年12月に工房入居と同時に杉本とふたりでentoanを設立しました。その後まもなく杉本が産休に入ってしまったので、今は僕ひとりでやっています。もうすぐ1年になりますが、最初の数ヶ月はほとんど毎日サンプル作りに専念していたので営業活動が全くできず、今もアルバイトをしながら靴を作っています。この夏あたりから展示会に出るなど少しずつ営業もし始め、その甲斐あってアルバイトは今年いっぱいで辞められそうです。とにかくひとりというのは時間的に厳しいですよね。作る方に一生懸命になっちゃうと、売れない。売る活動をずっとやっていると今度は新しい靴が作れない。そのバランスが悩ましいところです。

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-櫻井さんの靴の中では、特にこの木になる「きのみ」がユニークで印象的ですが、これはどんな経緯で生まれたのですか?

それは、かなり深い話になりますが(笑)。僕が最終的にやりたい靴は、こういう靴なのです。これ、実は卒業制作の作品で、「存在と時間」というテーマで作りました。例えば、砂時計を横にして置くと時間が止まっている、そんなイメージで時間が止められる靴を作りたいと思いました。「時間」の概念についていろいろな本を読み考えている中で、ふと、「驚く瞬間というのはどうだろう」と思い立った。靴を見る、触れる、そして、驚く。そこで一瞬、時間が止まる。そんな靴を作りたいな、と思ったのです。そこからパッと木の実が閃いた。左右の靴を合わせるイメージですね。くっつく仕組みには磁石を使いました。それから最近になって1作目の時よりも格段に強力な磁石をみつけたので、「きのみ」の進化版として、左右の靴がくっつくだけでなくそのまま木になる装備も搭載しました。木から実をとって、割って、遊んで、履いてみる。そういうストーリーです。カタチは奇抜ですが、もちろん靴として普通に履けます。アッパー部分はオイルレザーを使って柔らかめに仕上げました。歩くとちょっとバランスがとりにくいかもしれませんが、履いた感じは意外に普通の靴でしょ?底に革が貼ってあるので減ってきたら交換もできます。これまで「いいね!」と言ってくれた人はたくさんいらっしゃいましたけど、残念ながら買ってくれた人はまだいません(笑)。

-櫻井さんが靴作りでこだわっていることについて、具体的にお聞かせください。
こだわりは・・・まず、素材は絶対に自分の中でいいと思うものを使うこと。具体的には作る靴に合った厚さやなめし方、そして時間とともに変化する風合いを持った革を選ぶようにしています。今後は毛皮でところどころ剥げている革とかトナカイの革とか、少し変わった素材を使ってみたいですね。それから、修理しやすいシンプルなつくりにすること、壊れにくい靴を作ることも大切なポイントです。後はまあ、キレイに作りすぎない。あんまりカチカチにできているものが自分で好きじゃないこともあるし、そうやって完璧を求めすぎると最後の仕上げに多くの時間がかかってしまう。僕はそこにあまり魅力を感じないのです。現在はレディースメインで9つの型がありますが、どれも無駄をなくしたシンプルなつくりにしていて、その先は履く人が自分で育てていってくれたらいいと考えています。

entoan
-なぜメンズでなくレディースの靴を作るのですか?どなたかデザインのイメージとしている女性がいらっしゃるとか?
イメージとしている女性ですか?うーん、特にこの人、というのはないですが全体像みたいなものはあります。まずレディースを始めたのは、最初から自分の中では靴と言えばヒールのイメージしかなかったからです。学校ではかっこいいパンプスのデザイン画ばかり描いていました。その後、靴のつくりを学びながら自分の作りたいカタチを追求していったら自然と今のテイストになった。先ほどの女性像で言えば、シンプルな飾らない女性のイメージ、ですかね。
entoan
-靴を作ることは櫻井さんにとってどんな意味を持っていますか?

消費型のファッションアイテムというより、生きる上で必要とする道具を作ると考えています。だから無駄なものはなくしていこうと思う。この考え方は、Eatable of many ordersというブランドのデザインをしている方に学びました。初めてここの「hanger bag」というバッグを見た時には「ええっ!?」という衝撃が走りました。その瞬間、まさに時間が止まりましたね。その後、展示会に行く機会があって、あの「きのみ」を持参して見ていただいたところ、後日「一緒にやらない?」と声をかけてくださり、今はここでも靴を作らせてもらっています。

entoan
-entoanの靴は現在どういうルートで展開しているのですか?

基本的にはオーダー制です。あと、この夏はroomsに出展しました。セレクトショップやアパレルとのコラボの話も進んでいます。それから、この「葉っぱの靴」は少し前から子ども服のお店に置いてもらっています。実はentoanではこれが唯一、産休前の杉本と僕とで合作した靴なのです。最初、僕が普通にベビーシューズを作ったら彼女が葉っぱを付けてきたので、じゃあ植木鉢を作ろうと盛り上がり、こういうカタチになりました。子どもは成長が早いから、靴もすぐに履けなくなってしまう。でもこうして植木鉢に入れて飾っておけば、「小さい時にこれを履いていたんだよ」って将来、見せてやれるし、「昔はもっとこんな色してたよね」なんて、「時間」を感じてもらえるかなと思います。出産祝いに買っていく人が多いようです。

-櫻井さんご自身の今後の目標を教えてください。

個展をやりたいです。まずは来年の初めあたりに地元で1回目の展示会をやろうかなと思っています。将来的には、自分の工房とお店を持ちたいですね。そして自分が生きていくことの一部として一生、靴を作り続けたい。イメージは、海の近くに住んで家族がカフェをやる傍らで僕が靴を作る。そんなのが理想ですね!
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誰もが「えっ、これ靴?」と思わず手にとってしまう「きのみ」や、植木鉢に入れて飾れる「葉っぱの靴」。初めは唐突に感じたそれらのアイディアも、櫻井さんの言葉を通して聞くと、どれも自然なエピソードに思えてくるから不思議です。次はまた、どんな靴で私たちの時間を止めてくれるのでしょうか。
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シューズクリエイター:櫻井義浩(さくらい よしひろ)
大学卒業後、エスペランサ靴学院に入学。卒後、靴修理の仕事を経て2009年12月に杉本 華とふたりでentoan(エントアン)設立。現在はレディースシューズや小物の企画、デザインから製作、販売、修理までをひとりで手がけている。「驚き」「ユーモア」「笑顔」をコンセプトに未来の定番となるような靴作りを目指す26歳。11月からメンズも始める予定。
スリッポン ¥33,800
きのみ ¥100,000
葉っぱの靴 ¥16,000

♥entoanインタビューPart2はこちら >>
【インタビュー】「ひと」と「靴」の関係を追及するentoan櫻井義浩さんの想い

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★お問い合わせ
entoan(エントアン)
Tel: 03-6458-1784
Email:entoan_1814@yahoo.co.jp
Official web site:http://monokobo.jp/entoan/
ShoeCream編集部

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