News|Jul.3.17
「日本人の女性靴職人として海外で初めて展示会を行った時は、現地の人に茶化されたりもしました」。そう語るのはビスポーク&パターンオーダー靴「Nao Yokoo」と既成靴「KARIBAKI」を展開している、横尾直さんだ。デザイン性と技術の高さで、海外で高い評価を得ている日本には数少ない女性靴職人である。日本人にとっての“靴”は歴史も浅い分、ファッションの中でも重要度は低く見られがちだが、欧米諸国ではその人の人間性、品位や階級を表す重要な部分である。敷居の高いレストランなどでは、靴によって客に対する態度を変えるほど。それだけ靴に対する高い意識と厳しい目を持った人たちに受け入れられている、彼女が作る靴の魅力は何か。イタリアでの展示会を終えて帰国したばかりの彼女に、工房にお邪魔してインタビューを行った。
本格的な靴製作を学べる教室も開いている工房は、40畳ほどの広いスペースに、ミシンや機械、靴がところ狭しと並べられている。「古いものが好き」という彼女の好みどおり、長い年月使い込まれた機械や道具が置かれ、まるで映画のセットのような空間を作り出している。細かい装飾物などを入れておく棚や、味のある立派なテーブルの上に置かれた革製の小物入れなど、彼女のセンスの良さは細部に宿っているようだ。
「美しくないものは嫌い」。
笑顔をこぼしながらもはっきりとそう言った彼女は、言葉通りの美しい靴を作っている。「昔から靴職人になりかったというより、靴をデザインしたかった。けれどデザインした靴を作れる場所がなかったから、自分でデザインして作る場所を作り、結果的に靴職人になったのです」。
幼少期から興味のあった建築を学ぶべく、日本の大学では建築学科を専攻。建築を学ぶ傍ら、心のどこかでシューズデザイナーという職業にも魅力を感じていたという。しかし、インターネットが現代ほど進歩していない時代、海外の情報は無論、国内の靴学校について調べる術などほとんどない。高校生の時に偶然雑誌で見た、イギリスの靴学校についての記事だけが頭の片隅に残っていた。「その学校が実際にあるのか、あるのであれば何処にあるのか、何も分からなかった。両親に渡英の承諾をもらうため、まずはロンドン大学に入学し、渡英してから靴学校コードウェイナーズ・カレッジを見つけて転入し、通い始めたのです」。海外留学もそれほど主流でない時代に「昔雑誌で見た」というだけの情報を片手に入学までこぎつけた勇気と根性は、計り知れないものがある。
靴学校コードウェイナーズ・カレッジではデザイン、パターンなど基礎を教わったが、期待以上の学びは薄く1年で辞退し、靴の本場であるイタリアに10ヶ月滞在。しかし、言葉の壁や経済的な理由から日本へ帰国した。コンサルティングや企画などを行う会社で靴に携わる仕事をしつつも、やはり自身がデザインした靴を作りたいという気持ちを捨てきれなかった。そんな時に、コードウェイナーズ・カレッジの先輩でもある日本人が開いた靴学校ギルドフットウェアカレッジで靴作りの技術を学べる機会が訪れ、一期生として入学。イギリスで学んだ靴作りの基礎をベースに、デザインしたものを形にする技術を身に付けた彼女は、遂に自身の工房を構え靴職人の道を歩み始めたのである。「工房を持てたからといって、プロとして生きていけるわけではないですね。二十代の時には、どこでミシンを手に入れたらいいのか、どのようにしてお客様を集められるのか、分からないことだらけでした。ミシン一つ手に入れるのも、浅草を駆け回って、やっと」。靴学校を求めて手薄の情報のみで渡英した時のように、またここでも十分な情報がないままのスタートであった。
靴学校で学んだ人が全員、靴職人になれるわけではない。大半の人がメーカーなどに勤め、ごくわずかの人が自身の工房で靴職人になる。そしてそのごく一部の人間だけが、靴職人として生きていけるのだ。その厳しさは、“作りたいものを作る”という一見自由に見える靴職人の道と、世の中に求められるものを作ってビジネスを回す、というギャップにある。「自分の理想と求められるものをすり合わせて、規制の中で満足を感じられています」。彼女の潔い言葉に、厳しい中で靴職人として10年以上経験を積んだプロらしさが滲み出ているように感じる。
実は靴一足を作り上げるには、素人には想像もつかないほどの長い工程を経る。「靴を作る前にまず道具を慣らし、『自分の物』にするところから始まります。デザインが決まっても材料があれば靴が完成する、ということでもない。洋服やバッグなどとは違い、靴は足に密着するものであり、サイズがとても重要です。何度も何度も仮り履きを重ね完成します」。現在はパターンオーダーをメインに、フルオーダーも受けている。作る過程でデザインを変更したり、疑問が湧いたり、時にはオーダー通りに少し無理をしてでも装飾を施す。高いデザイン性を重視して靴を製作するからこそ、妥協は許さずベストな形で靴を完成させることにこだわっている。「完成して実際に履いてもらうまで心配でたまりません。靴が出来上がっても嬉しさよりもまず心配があり、お客様に『良かった』と言ってもらえて初めて安心できます」。デザイン・履き心地ともに満足してもらえる靴を作りたいという、お客に対する真摯な姿勢と靴に対する愛情こそが、国内のみならず海外の人にも高い評価を得ている理由かもしれない。経験で培った技術と判断力、底知れない創造力は、下積み時代の「諦めない」という硬い意思とともに養われていったのだろう。
「ファッションの一部として、デザイン性の高い靴を作ることにこれからも重点を置いていきたい。ただ美しいだけではなく、永久的に残る、私にしか作れないものを」。横尾直さんにとっての“美しさ”とは、エレガントな教科書通りの物だけではない。まだ誰も見た事のない前衛で挑戦的なデザインの中に、繊細さと麗しさを兼ね備えたもの。彼女の作った靴を一度手に取れば、その素晴らしさは一目瞭然だ。そんな彼女に将来の展望を伺ったところ、「まだ秘密です。叶った時に話しますね」。と期待を持たせてくれる返答だった。ロンドン、パリ、フィレンツェと徐々に活動の場を広げているが、彼女の目には、更に広い世界が広がり、先を見据えているようだ。「理想のものを作るには死ぬまでかかるかも」。飽くなき探究心が、これからも彼女を突き動かしていく。
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